FLYING FRYING PAN」の普後均が放つ新たなる名作。2010年度伊奈信男賞受賞作。
円形の貯水槽の上を舞台とし、日常的な世界とメタファーの世界とが交差しながら進行する。
無名性と個、生命、陰陽、暴力、光。宇宙的な広がりを孕むモノクロ65点。
著者サイン入り。
ON THE CIRCLE
円形の貯水槽の上に寝て目を閉じる。
宇宙に包まれるという感覚ではなく、宇宙を包み込むという感覚、
そのような一瞬は来るのだろうか。
多分、その時は、生きることの不安からも死の恐怖からも解放されるに違いない。
瞼に柔らかな光を感じながら漠然とそう思う。
円の上で交差する。直線的な時間と円環する時間が。
円の上で融合する。日常と非日常の世界が。
草を揺らす風の音。小鳥のさえずり。銃声。子供の泣き叫ぶ声。水面ではじける水滴の音。
円の上に音があふれる。
母の声は錯覚だったのだろうか。
日が落ちて、ぼくは起き上がり、貯水槽の上に立つ。
仄暗い中、何もない円を見つめる。
普後均
>赤々舎
赤々舎 2012年刊行 テキスト日本語/英語
サイズ 縦306×横266 厚さ18mm ハードカバー 116ページ