1971年、写真家・中平卓馬は若い芸術家たちを対象にした国際展、パリ青年ビエンナーレに参加、現地で撮影し、その日のうちに展示するという約1週間の実験的なプロジェクト《Circulation: Date, Place, Events》に挑んだ。パリの街、そこに行き交う人々や車、さまざまな印刷物、会場に展示中の自らの作品や他の作家たちの作品、地下鉄構内、テレタイプで配信されるニュース記事、テレビから流れる映像、ホテルの部屋に運ばれた朝食や干した下着……、中平はパリで出会ったあらゆる事象を「無差別」に記録し、その日のうちに展示した。プリントは日々増殖し、壁面のみならず、床にまで貼りめぐらされていった。
主催者とのいざこざがきっかけで、会期終了2日前に展示したプリントを自ら引き剥がし、作品撤去という苛烈な結末をたどることになったが、帰国直後に執筆したエッセイでは、「この仕事を通じて、少しだけ自分のいうこととやることが一致し始めたことをかすかに感じはじめている」と、自身の写真の方法論を具現化した試みとしてその手応えを語っている。
1970年に60年代半ば以降の作品をまとめた一冊目の写真集『来たるべき言葉のために』を発表した中平は、1973年に刊行された映像評論集『なぜ、植物図鑑か』の表題エッセイで、自身の初期作品を批判的に検証し、大きく転換を図ることを宣言するが、これまでごく一部の内容しか知られていなかったこの1971年の《Circulation: Date, Place, Events》は、まさにその転換の途上での一つの実践だった。
こうして現地制作のインスタレーションとして発表された《Circulation ― Date, Place, Events》は、カメラでとらえた現実を、即時にプリントとして現実に差し戻すという行為そのものが作品だったと言うことができる。したがって、本書は、そのインスタレーションの再現を目的とするものではなく、むしろ写真集という別のあり方で、71年のパリでの中平卓馬の視線に、新たに触れようとしている。
<再入荷しました>
>中平卓馬
オシリス 2012年刊行 テキスト日本語/英語
サイズ縦208×横145 ソフトカバー 320ページ スリップケース入り