壊れゆく感覚があるが、退廃的な悦びはない。野蛮に快活である。意味は後退するが事物はそこにあり、むしろ迫り出す。事物たちが暴力的なまでに潜在させていた姿をさらして、迫り出す。名前は聞こえないが無音でなく、むしろうるさい。音と認めていなかったものが一斉にざわめいて、うるさい。関係は希薄になるが心細くなく、むしろ興奮する。ほどけながら新たな組成をはじめる予兆に、興奮する。崩壊感覚とともに濃密な圧力で眼が押される。—
(本書収録、「崩壊感覚、逆眼圧、回顧」五所純子 より)
2003年に横浜美術館で開催された「中平卓馬 原点復帰−横浜」展の準備のさなか、大量の未発表モノクロプリントが発見された。同展で一部が公開されたこの写真群の多くは、自宅のある横浜近郊で撮影され、撮影時期は78 年から80年代終わり頃と思われる。当時中平は毎日、日の出とともに、近所を歩き、自転車を漕ぎ、撮影し、そして自らプリントを焼いていたという。本書は、その膨大なプリントから〈自動車が写っている写真〉もしくは〈自動車も写っている写真〉だけを選出し膨大なページ数に綴じた。世界的に見てもおそらく最も稀有な写真家/批評家の一人である中平卓馬を、言葉ではなく写真から読み解くことを試みた写真集である。
編集・構成=松本弦人
>中平卓馬
>BCCKS
BCCKS 2014年刊行
サイズ縦148×横105mm 1024ページ
<再入荷待ち>