本書は夜の闇に沈んだバーゼルの空景と共に幕を開ける。
その先に広がっていたはずの星空は一枚の黒いイメージへと姿を変え、その存在はどこかに隠された。
我々はその暗闇の向こうに何を見るのか。
過去の痕跡はまぶたの上で明滅し、一瞬のうちに背後の灯火は消えゆく。
星の光が遥か遠い昔日の残光であるように、存在の証明とされる写真は不在の証明として新たな存在へと姿を変え、再び発光を始める。
その微かな光が照らす道筋を辿り、私はまたどこか彼方へと続く旅路の歩を進める。
「遠くの光」と題された本作は、ロンドンを中心に2011年から2015年の間ヨーロッパで撮影されたイメージから構成される。ここに登場するイメージの中ではなにか特別な事件が起こるわけでもなく、ただ淡々と「存在と不在」というテーマのもと、普遍的な光景がある一定のリズムで次から次へと展開される。 その行為は散った花から元の様子に思いを馳せるかの如く、不在そのものからイメージが孕む存在を確かめる試みなのかもしれない。極限まで装飾を排したシンプルなデザインや紙の選択、作者の手の痕跡はイメージの繊細さと脆さをより際立たせる。
-CV-
河野幸人 1989年金沢市生まれ。
2011年に渡英し、London College of Communicationにて写真を専攻。
>河野幸人
Self Publishing 2015年刊行
サイズ 縦182×横128mm ソフトカバー106ページ
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