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岸
清水裕貴 | Yuki Shimizu
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赤々舎
この写真集は、水辺の旅の写真、潮間帯に生きる架空の生物の話、水中から攫いにくる何者かとの会話、海水や黴で腐蝕させた写真で構成されている。
水は人々の生活に不可欠なものだが、同時に大きな災いをもたらす存在でもある。人は時に川を神に見立てて、海に怪物の影を見つけ、湖の水面や白波の向こうに亡くなった人を幻視した。 私は十年に渡り水辺を旅して、身投げした姫が龍神になった川、生贄が捧げられた池、毒を浄化する湖、雨乞いのお祭り、水の喜びを歌う人たち、オアシスの街の跡、古代湖が干上がった砂漠などを撮影した。その傍ら、水神にまつわる伝承や、水害などの記録を集め、フィクションの世界を立ち上げて言葉を綴った。 それは風景の多層性を表現する試みである。
風景と写真は常に一致しない。カメラによって二次元に再構築された風景は、現実の視界とは大きく異なる光の絵だ。撮影者の目だけではなく、レンズの身体性、黴や埃の足跡、風と雨、水蒸気の振る舞いが複雑に絡み合う。撮影者は恣意的な操作と外界の干渉の間で揺れ動きながら、今ここに立っていることを保存しようとする。
しかし写真が描き出すのは、思いがけない他者の気配だ。 数秒前、数十年前、数百年前にいたかもしれない何者かの気配が、誰もいない草むらに生々しく立ち上がる。 私はそこにいる何者かの気配をよりはっきりと掴むために、撮影した場所を何度も歩き直し、言葉による風景の再構築を行った。言葉は私の心象を表現したものではなく、被写体の直接的な説明でもなく、風景を語り直したものだ。 その言葉を添えることで、過去の一瞬を切り取った写真へ、撮影後の時間軸からも干渉を加える。 もう一つ撮影後の時間軸からの干渉として、ネガフィルムを黴や海水で腐敗させた写真もシークエンスに加えている。 異なる階層から語られた風景は波のようにぶつかり合い、そのはざまに新しく風景が立ち上がる。
風景に蓄積された過去、他者の声に耳を澄ます装置としての写真の可能性を探る。 新しい風景の表現方法。
赤々舎 2024年刊行 テキスト: 日本語/英語
サイズ: 200mm×300mm ソフトカバー 136ページ
ISBN: 9784865411782
5,500円(税込)
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