鬼才として知られるコミック原作者アラン・ムーアによるグラフィック・ノベルの傑作。ムーアが自作のなかでも特に達成度の高い一作と自負し、彼の際立った作家性に触れることのできる格好の作品である。
いわゆる「切り裂きジャック」の連続殺人事件が本作のモチーフ。ノンフィクション・ノベルに奇想をはめこんだような巧妙なプロットに、ムーアの本領たるダイナミックな構成力、奥行きのある世界観・人間観が活かされている。丹念に再現されたヴィクトリア朝末期の英国社会に、いくつもの象徴が生み出す複雑な磁場がはりめぐらされる。キャンベルの画との絶妙のコラボレーションにより、狂気の犯人しか知らないはずの場面までが、まさに圧巻の幻視力をもって描き出されている。
静止画の存在感をもつ各コマに込められた意味とニュアンスを読み解きながら、その世界に浸りたい。19世紀末ロンドンの陰鬱な景色が、巻を閉じた後も読む者の目に焼きついているだろう。
小説的な読み心地と鮮烈な絵の力を兼ね備え、サスペンスとイリュージョンに満ちた、無類のエンターテイメント。全2巻。
<再入荷待ち>
>Alan Moore
みすず書房 テキスト日本語
サイズ縦258×横182 厚さ23mm ソフトカバー 288ページ