リチャード・レナルディが初めてセルフポートレートを手がけたのは1978年、彼が10歳の頃だった。少年はシカゴ郊外の実家のバスルームで、ラグビーシャツと白いチノパンという出で立ちで腕を組み、静かにカメラを観察する。前歯のあたりで唇をわずかに開き、意を決してためらいがちな笑顔を見せる。タイマーがシャッターを切るのを待つ。その結果、生涯にわたって彼を忙しくさせることになる、自己分析の作業が始まる。
1970〜80年代を通して、彼は自身の子ども時代を記録し続けた。ベッドルームの窓から見える景色や、空に舞う風船を撮影した。離婚したばかりの母親が鏡の前で口紅を塗る姿や、自分のことだけしか見ていない彼女のまなざしを撮影した。官能と自己表現という新たな可能性とともに、青年期が視野に入ってくると、10代の自分の体を記録した。彼はモデルになりたかったのだと気づいた。
まだ未成年だった頃に、初めての恋人となる年上の男に出会うと、彼のことも撮影した。大学に入り、世界中を旅した彼は、どこへでもカメラを持参した。アトラスのような体格になることを夢見て、成長していく自分の体を幾度も撮影した。彼は空想を現実にすることができなかった。答えを求め、カメラを使って自身を研究した。まるで自らが切望する筋肉を、魔法のように銀塩の結晶から出せるとでもいうかのように。彼はメキシコシティやニューヨーク、パリで、ハンサムな若い男たちと出会った。 さらに大人になっても、彼の側にはいつもカメラがあった。10歳の少年は、今では幾層にも蓄積された経験や愛のフライングの数々に押しつぶされて、途方に暮れていた。HIVに感染するも、彼の健康状態は良好に保たれ、病によって決定づけられることはなかった。ステロイドを使用すると、簡単に筋肉が増強された。彼はかねてから望んでいた姿へと変身し、30歳になると恋愛関係を始めた。それは揺るぎない愛だった。
何十年もの時が過ぎる。知恵が増えるのかもしれないし、そうではないのかもしれない。そういったことの大部分は、天候や湿度次第なのだ。この本の最後の写真には、カメラを見つめる10歳の少年が写っている。でも、彼は今では50歳だ。美しく照らされた勾配屋根のある白い部屋の未仕上げのフロアに、ひとりで裸のまま立っている。青年時代は過ぎ去っていった。彼はためらいがちにカメラを見つめる。タイマーがシャッターを切るのを待つ。
>Richard Renaldi
>SUPER LABO
SUPER LABO 2018年刊行 テキスト: 英語
サイズ: 縦252×横189mm ハードカバー 96ページ