40歳からスケートボードを始め、SLAPPYというトリックに取り憑かれた男性に、約5年間密着した写真集。
東京都中野区にある公園と施設の隙間の通りに、ちょっとしたスケートスポットがあります。
僕は2006年くらいにその場所を知ってから、2011年の頭くらいまで、時間さえあれば、本当に良くそのスポットに滑りに行っていました。
しかし、2011年3月11日に震災がおきてから、自分の状況がめまぐるしく変わりました。
アルバムリリースに伴い、音楽活動も以前より忙しくなり、スケートボードに乗る時間が減っていくにつれて、自然とそのスポットには行かなくなりました。
2013年頃、音楽活動も、震災での実家の葬式などの諸々も少しだけ落ち着いてきて、多少時間ができたので、久しぶりに、例のスケートスポットに滑りに行きました。
平日の夜だったと思うのですが、今までそのスポットで見たことのなかったスケーターが2人滑っていました。軽い挨拶をして、その日は帰りました。
また何日かしてそのスポットに行くと、以前は見なかったBMXのライダーや、50代の年配のスケーターなど、沢山の人が居て、一緒に楽しく滑りました。
そんな感じで、またそのスポットに少しずつ通うようになり、少しずつ新しい知り合いが増えていきました。
そのうちに、そのスポットで山田さんというスケーターに出会いました。
彼は、40歳頃からスケートボードを始めたのだそうです。山田さんは人柄が良く、色々な人とすぐに仲良くなります。
そんな山田さんは、あるときから「SLAPPY」というトリックに取り憑かれるように没頭し始めます。
SLAPPYは縁石にオーリーなしでグラインドするという、ちょっと独特なオールドトリックです。
楽しそうなセクションがたくさんある、大きなスケートパークにローカルのみんなで遊びに行ったときも、
山田さんは楽しそうなセクションには目もくれず、黙々と端っこの縁石でSLAPPYをしていました。
そのあたりから、僕は、彼の盲目的で異常とも言えるSLAPPY熱に興味を持つようになり、一緒に滑りに行くと、彼にカメラを向けることが増えました。
山田さんは最初、練馬にあるスポットで、SLAPPYを練習していて、まったくメイクできず苦戦していたそうです。
そして、SLAPPYができるようになったらいいなという妄想から、PARANOROIA SLAPPYSというチームを作ります。
文字通りスラッピーに取り憑かれたチーム名です。そして、ステッカーやらTシャツやらを次々に作り始めました。
また、その頃に仕事でハワイに行った山田さんは、偶然にもレジェンドスケーターであるジェフ・ハートセル氏に遭遇し、SLAPPYについて少しだけアドバイスをもらいます。
その出来事で、山田さんは、さらにSLAPPYに取り憑かれることになりました。
そして、地道な練習を繰り返し、山田さんは遂にSLAPPYをメイクできるようになりました。
妄想が実現した瞬間です。
そんな山田さんたちが作った、PARANOIA SLAPPYSの中の3人のスケーターを中心に、その周りの風景や人たちを、
カメラを手に入れて以来、ずっと、約5年弱撮影し続けてきました。
彼らは、すごく難しいトリックがメイクできる訳じゃないし、若くもないし、スタイリッシュでもないけれど、
ここには大人ならではの、損得勘定の無い情熱と美しいストーリーがあります。
何より、彼らとスケートを一緒に楽しむ中で、
何歳からだって、頭の中でピュアにイメージできたことは実現できるという瞬間を、僕は目の当たりにしました。
この写真集は、その、はかなくも確かに存在した瞬間の、ほんの一部をまとめたものです。
最後に、この写真集を作るにあたって、撮影に協力してくれた、PARANOIA SLAPPYSとHEIMORI LOCALSに感謝します。
2017年12月某日
PANORAMA FAMILY(GOMEZ)
>Panorama Familiy
Panorama Familiy 2017年刊行 テキスト: 日本語
サイズ縦280×横212mm ソフトカバー 64ページ
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