『小さな歌』覚え書き
2015年の冬に、楽想がわき、いくつかの旋律が立ち上がった。
それは「歌」と呼びたいようなものだった。
歌は「つくる」よりも、「うまれる」ということばが似合う。
うまれた歌は、繰り返しギターで弾くことで、ゆっくりと成長していった。
歌が成長していく過程で、名前がついた。
名前がつくと、その歌はひとりで立つことができるようだった。
いまこの歌たちをギターで弾いていると、自分のものであって、自分のものではないような、不思議な感覚を味わう。
2016年の夏に、いくつかの歌をたずさえて、山梨に向かった。
Studio Camel House は北米の納屋で使われていた木材が配されていて、ギターの音をしっかりつつんでくれた。
田辺玄さんは、歌を適切な場所へ導き、奏者であるわたしを励ましてくれた。彼がいなければ、このアルバムはできなかっただろう。
録音をしていくなかで、山梨の景色に触発され「ぶどう畑」という曲もうまれた。
haruka nakamuraさんは、スタジオにあるアップライトピアノを美しく鳴らし、楽曲に色彩を与えてくれた。
ジャケットデザインでは、新潟で土地と人と物をつなぐ活動を続けているエフスタイルの二人に相談にのってもらった。ジャケットの写真はエフスタイルの五十嵐恵美さんが、15年ほど前に撮影したものを使わせていただいている。
このアルバムに収められた小さな歌たちが、生活のひだを照らし、そこにたしかにあるものを、もういちど慈しむきっかけになればうれしい。
青木隼人
>AOKI, hayato