写真に宿るパッションや偶然性、かけがえのない時間。
吉野英理香の新作「NEROLI」(ネロリ)は、ビターオレンジの花から抽出されたアロマオイルの名前に由来します。花の蜜に、木の皮や葉の香りが入り混ざった複雑な香り。時間を集め、環境との関わりを経て抽出されたイメージが、見る人のうちに呼び起こすものを、香りに託しています。
鏡の反射像を映し込んだものや、繰り返される水のイメージ。愛する音楽のジャケットをセットアップして撮影したもの。さらにプリントを再撮影したり、写真そのものの生成や喪失を連想させるものーーその作品世界は、写真家自身が作り出した小さな虚構の世界が現実と交じり、掴むことのできない大切な瞬間へ向かっています。
イエローの布に包まれた繊細な造本も見どころのひとつ。菊竹寛によるテキスト「音色のように残響する」を巻末に収載しています。
「オルゴールが止まりかける、音が抽象性を増し始める瞬間のような写真ー吉野さんの写真を、例えばそう言ってみる。オルゴールは、そこに刻まれた音階にゼンマイで巻かれた振動板がまるで紙を櫛で解くように触れることで、音楽が奏でられる。けれども、やがて回転が遅くなると曲を奏でることを止め、抽象性を増した匿名の音色へと姿を変えていく。曲を奏でるために順序だてられた音階が確かにそこにあるにもかかわらず、曲の名残を伝える音色へと姿を変える音の群れたち。」 菊竹寛「音色のように残響する」より
>赤々舎
>吉野英理香
赤々舎 2016年刊行 テキスト: 日本語/英語
サイズ 縦230×横272mm ハードカバー 72ページ
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