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From Yokosuka
石内都 | Miyako Ishiuchi


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石内都 Super labo

「6歳から19歳という思春期を通して、身体的、精神的な成長期を横須賀で過ごした。しかし横須賀の町に故郷という意識はなく、楽しく明るい思い出もほとんどない。それはしかたのないことで、小学校入学の為に父の出稼ぎ先の土地へ田舎から引越してきた者にとってアメリカ軍の基地のある町横須賀は決して心ち良い場所でなく、良くも悪くも大きなカルチャーショックを受けた場でもあった。

その横須賀の町を写真に撮ることから私の写真人生がスタートする。この町の持つ光と影の強いコントラストはどこかフォトジェニックな風景を造り出し、この町の歴史が目には見えない傷跡を日々形成している。そんな空気の中で育った私の個人史的な物語がデビュー作「絶唱、横須賀ストーリー」である。

「From YOKOSUKA」は横須賀シリーズの最後となる作品で「絶唱、横須賀ストーリー」であまり撮影しなかったドブ板通り、EMCLUB周辺を中心に撮影する。昔、ドブ板通りに女の子は行ってはいけないと言われて育ったので初めの内は写真を撮ることも出来ず逃げるように帰っただけだったが、勇気を出して撮りはじめた事がなつかしく思い出される。 1980年ごろのドブ板通りはかつてのにぎわいはなく、米兵を相手とするキャバレーはほとんど閉まっていた。その閉まっていたキャバレーの一軒を半年間借りて「From YOKOSUKA」展を横須賀でいろいろ表現している人達と共に100坪の店内の壁を赤いペンキで塗り、「絶唱、横須賀ストーリー」と撮り下ろしの「From YOKOSUKA」は一晩キャバレーを密封して引伸し機を暗室から移動し、木材で船形のバットを作り、ロール印画紙を切って、180センチ×120センチのプリント2枚、120センチ×80センチを10枚プリントした写真を含め200点の写真を展示する。

そのキャバレーは2nd New YOKOSUKAという店だった。店内には2つのステージと馬蹄形の50人ぐらい座れるカウンターが有り、ミラーボールも外壁のネオンサインも生きていて、夕方になると数百個の電球のある2nd New YOKOSUKAの文字の大きなネオンサインに、スイッチを入れるのが私の役目だった。

かつてドブ板通りは基地の外に有るにもかかわらず横須賀でなくアメリカだった。Aサインバーとキャバレーは乱立し、ドル札での水商売は戦争と共に光輝く歓楽の通りだったのである。そのドブ板通りで私は写真を撮り、写真を現像し、写真を展示した。「From YOKOSUKA」によって過去のさまざまな思いを印画紙にすべてプリントしたのだった。 現在その現場のキャバレーは見事に消えてしまい私の写真の中に在る。「From YOKOSUKA」は嫌悪と憎悪の悪場所だった横須賀と正面きって向き合った展示である。横須賀に思いのこすことは何もない。固有名詞の横須賀は私から離れ遠くなる、出発点はその役割を果たして、歴史となった。現実の横須賀へもう行くことはないだろう。何かが終わったのだ。グッバイ横須賀、そしてありがとう横須賀。」
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>SUPER LABO
SUPER LABO 2016年刊行 テキスト英語
サイズ 縦280×横216mm ソフトカバー 40ページ
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